ノベルティの起源と歴史【金沢で作られた引き札も掲載】

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2019年5月1日から「令和」の時代が始まりました。

本記事では普段身近に意識する機会の少ない「元号」とともにノベルティの起源と歴史を辿ってみたいと思います。

時代の流れと共にノベルティがどのようにして生まれ、進化を遂げてきたのかそのルーツを探ってみましょう。

江戸時代の引き札がノベルティの起源

日本におけるノベルティの起源は、天和3年(1683年)に江戸時代の豪商である越後屋(現三越)が「店前現銀無掛値」(たなさきげんきんかけねなし)というスローガンを掲げ、従来の武家相手の掛売りの商売から店頭に商品を並べる町人相手の現金商売に改め、その広告・宣伝のために「引き札」を使用したのが始まりと言われています。

引き札

引き札とは、江戸時代から明治・大正時代にかけて商店、問屋、仲買、製造販売元などの宣伝のために作られた広告チラシで、宣伝文と絵(主に浮世絵)を入れて店頭や街頭で無料で配布されていたものです。

年末年始のあいさつ代わりに配られることもあったそうです。

中には暦を入れてカレンダーのようにして配られた引き札もあったそうで、年末年始にカレンダーを配る習慣はもしかすると江戸時代の引き札に由来しているのかもしれませんね。

引き札の語源は、「お客を引く」「引き付ける」「配る」(配るを引くと言ったそうです)から来ているという諸説があるようです。

デザインは、明るく色鮮やかではっきりした図柄と大胆な構図が用いられ、めでたいもの目新しいもの話題のものの図柄が多く、中には暦・カレンダーの付いたもの、郵便早見表、電車の時刻表の付いたものもあったそうです。

時の人気戯曲家や絵師がキャッチコピーや絵付けなどの制作を手掛けており、近代広告の元祖であるとも言えます。
現在では美術品として扱われ、当時の歴史的資料としての価値もあるため、各地の博物館に所蔵されるほか、展覧会も開かれています 。
※参考画像は後述の「金沢の引き札」の章で引用掲載しています。

引き札(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%95%E3%81%8D%E6%9C%AD

江戸時代に隆盛を極めた浮世絵の人気も相まって非常に多種多様なデザインの引き札が登場しました。

現代とは違い娯楽の少ない当時において引き札は非常に珍しく貴重なもので、人々が好んで手に取り、ポスターとして家の中に飾って楽しんだそうです。

またデザイン性も高く無料で配布されることから、引き札を目当てに大勢の人がお店に訪れていたと言われており、中には遠方から引き札を目当てに訪れたり、熱心な引き札コレクターも現れるほどだったそうです。

当然引き札には店名や商品名も書かれていることから、庶民にポスターとして楽しまれつつ、お店の広告宣伝としても絶大な効果があったことでしょう。

街頭でティッシュやチラシを配っても無視されて中々受け取ってもらえない現代からすると、まさに「時代が違う」という感じがしますね。(笑)

まだノベルティや販促ツールという概念が存在しなかった当時からすると、引き札がいかに斬新であったのかが分かります。

ちなみに引き札発祥の起源ともなった越後屋(現三越)。
その名前の由来は、創業者の三井高利が「越後守」を名乗る武士であることから「越後屋」と呼ばれるようになり、その後三井家の姓を取った「三井呉服店」と名を変え、1904年に三井の「三」と越後屋の「越」を取って「三越呉服店」となり、現在の「三越」に至ったそうです。

越後屋(三越)さん、さすがです!という感じですね。

越中富山の薬売りのおまけ文化

引き札の発祥から少し遅れた江戸時代後期、全国を歩き回り薬を販売していた富山の薬売りたちがおまけの品として富山絵と呼ばれた売薬版画(浮世絵)や紙風船などを配るようになりました。

当時の商習慣としては珍しく大変喜ばれたそうで、この富山の薬売り達の「おまけ」は日本における最初の販促ツールであったと言われています。

薬売りが来るたびに何かおまけが貰えるので、特に子供たちに大人気だったそうです。

人々に喜ばれつつ、自分たちの商売もしっかりするために考えられた素敵な仕組みですね。

引き札とはまた異なるルーツを持つ「おまけ文化」もその後の日本のノベルティ文化に影響を与えたことは想像に難くありません。

今でも富山の薬売りさん達は紙風船を配ることがあるそうです。

明治・大正時代で進化した印刷技術

明治後期に差し掛かる頃、写真技術や印刷技術の発展に伴い浮世絵は衰退期に入ります。

一方で引き札は文明開化で商業活動が盛んになったのに合わせて、印刷技術の発展とともに大量に作られました。

チラシ、折り込み広告、景品などの他にも、開店祝い、得意先配り、街頭配りなどにも使われたそうです。

明治・大正期には浮世絵の伝統や手作りの風合いを残しながらも、印刷技術の進歩により大量に印刷できる色鮮やかな引き札が登場し、この時期に数多くの引き札が作られました。

現在各地に現存する引き札はこの時代に作られたものが多いようです。

金沢で作られた引き札

明治・大正時代にかけて、金沢でも多くの引き札が宣伝のために作られました。

戦火を逃れた金沢では資料館や博物館に今なお多くの引き札が所蔵されています。
いくつかの画像を石川県立図書館が所蔵する貴重資料ギャラリー様より引用掲載させていただきました。

ほとんどの「作品」が明治・大正期に作られたものですが、、、浮世絵の風合いを残しつつ、商業的な一般印刷物とは思えない程に芸術作品とも言うべき完成度ですね!

左上のチラッと顔を出している子供がいぶし銀です。(笑)

鶴は時代を問わず縁起が良い動物ですね。
これは日本文化特有なのでしょうかね?

幕末・開国当時の世相がデザインにも反映されていますね。

金沢の引き札なのですが、絵柄は白山ではなく・・・富士山!?
加賀国美川町と書いてありますから、白山かなとも思いましたが、富士山に見えますね。

縁起が良くめでたい図柄が多く、当時の文化的背景や世相を表した図柄が多いのも特徴的ですね。

ある程度の雛形に沿って制作されていることが伺えますが、デザインとしても素晴らしい出来栄えだと思います。

当時はPCはもちろんグラフィック作成ソフトもない時代ですから、さぞかし大変だったことでしょう。

ノベルティとしての役割が先なのかデザインが先なのか分からなくなる程、思わず感心してしまいました。

金箔ノベルティにすると間違いなく映える色使いです。(笑)
権利関係がどうなっているのかは調査していませんが、クリアできるなら作ってみたいですね!

ご興味ある方は石川県立図書館が所蔵する貴重資料ギャラリーより多数の引き札が見れますのでご覧ください。

出展:金沢の引札(石川県立図書館が所蔵する貴重資料ギャラリーより)

昭和・平成で爆発的に普及したノベルティ

江戸時代から始まり明治・大正期に最盛期を迎えた引き札ですが、昭和に入ってからはあまり作られなくなりました。

広告・販促物に関しては印刷技術の進歩があり、引き札として制作する必要性や目新しさがなくなってきたこと、そして新聞の流通なども関係しているかもしれません。(この辺りはある程度憶測で書いているので、後日調査して加筆修正したいと思います)

一般庶民に人気を博してきた引き札の役目がひとつの終わりを迎えたのでしょう。

時代背景も影響しているかとは思いますが、当時のノベルティに関する歴史的資料や文献についてはあまり多く見られません。

ノベルティという言葉が定着したのはそもそも昭和後期のいわゆる近現代になってからで、月めくりカレンダーが流通するようになったのは、1945年(昭和20年)以降といわれています。

また広告宣伝を目的とするポケットティッシュが開発されたのは1968年頃と言われています。

ノベルティという言葉は元々原義では「目新しいもの、斬新さ」を意味していましたが、近年では「企業が自社のサービスや商品の宣伝を目的として、名入れをして無料配布する記念品」と解釈されるのが一般的となっています。

戦後の高度成長期、バブル期、サラリーマン=営業マン的な時代背景とも無縁ではないでしょう。

昭和の戦後以降はノベルティ群雄割拠とも言うべき多種多様なノベルティが企画・開発され今日に至っています。

当社調べのノベルティよく貰うランキングの一位はやはり「カレンダー」です。

人気はやはり定番の卓上カレンダー、壁掛けカレンダー。
昔はカレンダーと言えば壁掛けタイプが一般的でしたが、最近は卓上カレンダーの人気が高いようです。

デスクに置いて個人的に使える卓上カレンダーは地味に便利ですよね。

続いて人気があるのが、ボールペン、クリアファイル。

いずれにしてもオフィスで使用する実用的なものが好まれる傾向があります。

取引先から期待するのは、、、カレンダーは一社からだけでいいから、他社からはボールペンとクリアファイルが欲しいですね。(笑)

江戸時代の引き札から始まったノベルティにまつわるエピソードも結局は娯楽性よりも「実用性第一」という所に落ち着きますね。

令和を彩るノベルティの存在意義と価値について

時代は平成から令和に変わりましたが、我々の身の回りの何かが突然変わるわけではありません。

もちろんノベルティについての認識や商習慣が急に変わるわけでもありません。

ただ今回本記事を書くにあたり調査した、江戸時代の「引き札」から始まったノベルティの起源や歴史を辿ってみると、ノベルティとしてあるべき形の原点を垣間見た気がします。

ノベルティとは現代では、お店や商品、サービスの宣伝を行う為に制作して配布する販促品ですが、宣伝が第一義ではなく、受け取った人たちに喜んで使ってもらえるような配慮や心がけが反映されたものであるべきです。

企業の宣伝第一ではなく、ユーザーファーストの視点に立ち、娯楽性もしくは実用性が第一義としてあり、自社の宣伝はおまけ程度でよいのです。

その昔、富山の薬売りたちが子供たちに配った紙風船には名入れは無かったそうです。

名入れは無くとも富山の薬売りが来たら「おまけ」が貰えるという商習慣が根付いたのだそうで、実際に筆者の親族に聞いたら、薬売りにもらったオモチャの思い出話を聞くことができました。

当然商売なので商品を買ってもらうのですが、ノベルティを通して顧客との良好な関係性を保っていたのですね。

令和になった現代では相変わらずモノは溢れ、より多種多様なノベルティが存在します。
「引き札」に見られたようなノベルティ本来の原義である「目新しいもの、斬新さ」を意識しつつ、カレンダーやボールペン、クリアファイルなどの実用性を兼ね備えた、ハイブリッドなノベルティを提供したいものですね。

そして、もうひとつの興味深い視点を挙げるとすれば、富山の薬売りたちの立ち振る舞いに見られるような、子供たちに喜ばれるモノ作りを大切にすること。

越後屋から得る商売の原則、富山の薬売り達の人の心を掴む粋な振る舞いは現代においても大いに参考にすべき点がありますね。